愛されたいのはお互い様で…。
「あんな、あられもない姿を見せられては、男として待ってなんかいられません」
どうして…こんな。何とか平静にしないと。今、今というか、そんな場合ではない。
「いや、あの、さっきのは伊住さんにしてみたら、もらい事故みたいなモノです。慌てたというかですね…インターホンを鳴らしているのが伊住さんだと思わず、苛立っていきなり開けた私がいけなかったんです。みっともない姿をお見せしてしまって…こちらがすみませんでした。これは駄目です」
「そうですね、と…今夜は素直に言いたくありません」
くるりと回された。
「唇を頂いてもかまいませんか?貴女との口づけが忘れられません…」
あ…。…伊住さん…。
正面から手が頬に触れ見つめられた。
駄目ですと言いながら動けない。吸い込まれそうな目に捕われている。どうして、こんなタイミングで…現れたの…。
ゆっくりなのに、近づいて合わされる唇を逸らせなかった。優しく何度も触れる。柔らかく何度も食む。離れて至近距離で見つめられた。…何となく解った。次、唇が触れたら、それはもう…。…ん。抱きしめられた。
「はぁ…同意をください。偶然とはいえ…どうやら普通じゃない状況の時に来てしまったようです。貴女の心の中は、今、空き家ですか?誰も住んでいないのなら…私が住みたい…入りたい…」
伊住さん。
「……人は居ません、訳あって追い出しました…居なくなりました…でも、…住んでいた形跡はまだはっきり私の中にあるんです。目に見えないモノも住んでいます。…今、追い出してしまったばっかりなんです。だから、まだ…ハウスクリーニングが終わってないんです」
…複雑だということは説明しなくても解ってると思う。
「…弱りましたね。…今夜は…まだ早いという事ですね」
「…はい」
「はぁ…。仕方ないです。私の本来の目的もこれですから」
足元に置かれていた物はお店の袋。
「駄目ですよね。出来たと思ったら、一刻も早く紫さんの喜ぶ顔が見たくて、こんな時間と知りながらも強引に来てしまいました。しかも、ほぼ、出る事を拒否しているようなところを。意地になってインターホンを鳴らし続けてしまいましたね」
それは、それで、偶然というか、タイミング的にそうなっただけ。
「では、これは…」
「はい。ご注文の…黒いパンプスですよ」
…伊住さん。