彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
「それにしても、帰ってきた早々に女性に絡まれるなんて、先が思いやられますね」

「・・・確かにな」
「康史さん。ご自身でもっとさっさと撃退して下さいね」
「悪かった。言い訳させてもらうと、撃退するところだったんだぞ」

「しかし」
康史さんは私の手を持ち上げニヤリとした。
「さっきの早希は格好良かった。惚れ直した」

「ありがとうございます」
私は恥ずかしくなって俯いた。どうやら概ね上手くいったみたいだ。
自分じゃないキャラクターを演じているようでなかなか緊張したけど、康史さんに近づく女性が帰ってくれたのだから、よかったのだろう。

私は東京に戻るにあたり、康史さんに自分の家族のこと以外に康史さんとの関係、特に女性に関しての不安を訴えたのだ。

今までにこのお店で私に嫌がらせのように声をかけてきた女性はさっきの人だけではないし、いくら従妹だとはいえ薫と抱き合うのも勘弁して欲しい。
もちろん他の人とも。
その事を伝えるとそんな私の気持ちを康史さんは理解してくれた。

早希しか要らない。
早希しか見えない。
早希だけいればいい。

康史さんに何度もそう言われて私もその気になってしまうあたり私はかなり単純だ。

姉には卑屈にならずもっと堂々と康史さんの隣にいればいいと言われた。

「女が寄って来るのなら早希が追い払えばいいのよ」なんて簡単に言われ。
そんなの無理だよと言う私に「女優になれ!」とお尻を叩く姉。
そんな姉にじっくりと仕込まれて東京に戻ってきたけれど、まさか初日に姉の特訓の成果を披露するとは思わなかった。

この先が思いやられる。
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