彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
化粧室に向かうと、入口手前から中にいる女性たちの話し声が聞こえてきた。
廊下まで聞こえるその声に思わず顔をしかめて足を止める。

「海外事業部の佐本さん、ちょっといい気になりすぎじゃないの?」
「そうよ、何人も男性社員に囲まれて女王様きどり」
「まあ、確かに顔もスタイルも男が好きそうな感じだけど、あれはあからさまに男を誘ってるみたいよねえ」

それは親友の由衣子に対する悪口。

ああ、まただ。
由衣子に対する女性社員のひがみや妬み。

それは今に始まったことではない。容姿がよく、仕事もできる由衣子の存在はかなり目立つ。

以前、社内の女子トイレで同じような悪口を聞いてしまい、私は思わず激しく反論してしまったことがある。
由衣子の獲ってきた大きな仕事が『夜の営業』の成果のように言われていたからだ。
由衣子は人一倍の努力をしている、それだけにその言い方が許せなかった。

その時は偶然居合わせた女性課長が仲裁に入り事なきを得たけど、女性課長にも「腹が立つのはわかるわよ。それでも、もう少し周りに配慮した言い方の反論をするべきだったわね」と諭された。

確かにそうだと思った。

その後、それを知った由衣子は泣きながら私に抱き付いてきて
「ありがとう。早希。私、嬉しい。でももう誰に何を言われても大丈夫だから。私の周りには私のこと理解してくれてる早希や先輩がいてくれる。早希も私の悪口を聞いても無視していいからね」
そう何度も何度も繰り返した。

由衣子の気持ちを思うと切ない。


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