クールな外科医のイジワルな溺愛
「そうです。あのときはお世話になりました」
そのまま昔話に突入しようとすると、先生はそれを遮るように言った。
「いえいえ。申し訳ないが、今夜は当直なんです。また救急外来の方へ戻らなければならないので、先に説明をさせてください」
非常にあっさりとした対応で、黒崎先生は昔話を切り上げてしまった。
「足も当分は動かせないし、脳や臓器はもう少し詳しく調べて様子を見たい。少し入院してもらいます」
「入院!?」
そんな。骨が折れたくらいならギプスをして帰れると思ったのに。そんなに甘くなかったか。
「というわけで、入院に必要な物や書類をそろえていただきます。といってもあなたは身動きが取れない。朝になったら誰かに連絡して入院準備をしてもらいたいのですが……お父さんはもうお亡くなりになっている。お母さんは……」
「いません。兄弟も」
「ああ、そうですか……。うーん……」
黒崎先生は美しい顔の眉間にシワを寄せた。
「ご親戚は」
父の兄弟はまだ生きている。けど、四十九日と初盆で会ったきり、今度は一周忌まで会う機会はない。そんな薄い付き合いの親戚に入院の準備をしてもらったりなんて、頼みづらいことこの上ない。私はふるふると首を横に振った。