クールな外科医のイジワルな溺愛
抜糸が済むと、一旦退院となった。退院の日、先生はお休みだった。その前の日に挨拶に来てくれて、お父さんと二人で頭を下げたのを覚えている。
その後は通院して治療を続けていくはずだった。けれど病気の進行は思ったより早く、何度も体調を崩して入院。五度目に吐血したときには、もう手の施しようがなくなっていた。
辛い治療にも耐えていたお父さんだったけど、とうとう去年、入院中に急変して亡くなった。
病気のせいでせん妄の症状を起こし、わけのわからないことを言ったり、暴れたりしたこともあったけど、最後は眠るように静かに逝った。
『お父さん、嫌だよ。私を置いていかないで』
小学生の時に母と離婚し、それから再婚もせずに男手ひとつで私を育ててくれたお父さん。
普通の会社員で、ごく普通の人だった。私にはとても優しくて、お父さんさえいてくれれば寂しくはなかった。
『私を一人にしないでよ』
どうしてこんなに早く逝ってしまったの。まだ何の親孝行もできていないのに。
ごくわずかな親戚でお父さんを見送ったあと、私の胸にはぽっかりと穴が開いたようだった。何をする気も起きない。
そこからだ。私の無気力な生活が始まったのは。こんなんじゃ天国のお父さんが見たら悲しむと思う反面、もうお父さんがいないのだから頑張る理由もないと思ってしまっている。