クールな外科医のイジワルな溺愛
お父さんがいるときは、交代で食事の用意をしていた。お互いにお互いの体を気遣った食事を作っていた。
タバコも吸わず、お酒もほんの少ししか飲まなかったお父さんが癌になった。じゃあ、体に良い食事なんて意味がないじゃない。そう思うようになってしまった。
なによりも、食べさせる人がいない料理というのは虚しいものだ。ひとりきりなら、カップラーメンと既製品の餃子でじゅうぶん。
二人で住んでいた部屋は、広すぎたから解約した。そして今の狭いワンルームに移った。お金はあまりない。癌治療というのはとにかくお金がかかる。黒崎先生の手術もものすごく高かった。保険に入っていても全てを補うことはできず、最後は真剣に生活保護の申請を出そうか悩んだものだ。
お父さんが亡くなって生命保険料が出たけど、50歳を過ぎていたため、お葬式代でほぼ消えるくらいの金額しかなかった。
でも、そんなことどうでも良かった。生活保護を受けるようになったとしても、お父さんに生きていてほしかった。もう一度元気になったら旅行に行きたいね。そんな話をしていたのに。
『花穂の花嫁姿を見るまで死ねないよ』
『孫を抱きたいなあ。可愛いだろうなあ』
せん妄でわけがわからなくなる前はよくそう言っていたお父さん。
お父さん、ごめんね。全然お父さんの希望を叶えてあげられなくて、ごめんね……。