ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
「お前から言われた通り、守田くんと、秋元さんと後ろから走行して、ブレーキの細工に気づいた時点ですぐに車から道路に飛び降りてもらった。2人とも擦り傷ぐらいはついたそうだが無事だ。流石の読みだな。
お前、すぐに医者辞めて警察来いよ。」

ホッとした表情の慧は怠そうに叔父を見た。

「嫌です。僕は生憎、民間人を守りたいと言う熱い正義のハートは持ち合わせてないんです。」

「お前が守りたいのは山科美桜だけか。ブレないなー、お前は!!」

肩をどつかれた慧は、暑苦しそうに顔を顰めた。

海は、その会話を驚きの表情で聞いていた。

美桜のためなら命は惜しくない。

慧のあの言葉は本物なのだと、そんな男がライバルじゃ勝ち目はないと思ってしまう自分がいた。

だけど、俺だって物心ついた時から彼女を妻とすると決めていたのだ。

「まだ負けるつもりはない。これで同じスタートラインぐらいだろ?二条!」

海は、家名の力など及ばない所で勝負したいと思っていた。

慧の背中を目がけて海は呟く。

「なんか言ったか藤堂?」

海はクスっと笑って首を振ると、前を向きなおした慧は叔父に封筒を差し出した。

「僕の父への殺人の証拠です。
油田投資の為にあいつの4年のドバイの滞在を計算すると、時効は切れてませんね。
その他にも、これまでの山科亨三のあらゆる黒い部分の証拠が詰まった書類になります。
山科聖人が命を懸けて集めて来たものです・・。
聖人の警備も引き続き宜しくお願いします。」

「ああ、分かった。お前は全く・・叔父使いが荒いなぁ・・。さてと、山科美桜、彼女はどうするんだ?」

「彼女が決めるでしょうね。
僕はその選択を聞きに今から彼女の元へ向かう所です。」

吹っ切れたように、笑う慧に威勢の良い叔父がドンと肩を叩く。

「よし、そこまで送ってやるぞ。頑張った褒美にな。」

「有難うございます。」

頭をぐしゃぐしゃされながら、落ち着いた様子の慧は薄く笑った。

「西園寺総監、お車の準備が出来ております。」

騒がしく、聖人の病室を出て行った慧と叔父を呆然と見送った海はポカンとした表情を浮かべていた。

誰もいなくなった病室の中、閉まり切った扉を目がけて大声を出した。

「け・・警視総監・・・!?」

ガクリと、椅子に腰を下ろしたまま、茫然と扉を見つめていた。

警備の警官は、緊張が解けたようにリラックスしていた。

「あいつの人脈が怖い・・。なんなんだあいつ。
・・・敵に回すと末恐ろしいな。」
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