これを愛と呼ばぬなら
「……彼女とは、結婚が前提の婚約関係にあったんです」
詳細は話さなかったけれど、新井さんは家の事情で親に決められた結婚相手がいた。それが、彼女だったらしい。
「家のこともあるし、物心ついた頃からそれとなく普通の結婚はできないだろうと思っていました。自分の人生は、家のためにあるのだと覚悟していた。案の定働き出して二、三年した頃、彼女を許嫁として紹介されたんです」
自分の人生を犠牲にすることに、反発心がなかったわけではない。でも新井さんなりに、彼女を愛そうと心に決めた。
「一緒に過ごす時間が増えていくほど、僕は彼女を愛しいと思うようになりました。一生を共に過ごす大切な存在だと、そう思っていた。……でもあの夜、僕が抱いている感情は愛情ではないと彼女に言われてしまったんです」
自分でそう決心したように、新井さんは彼女のことを大事にした。忙しくても連絡を欠かさなかったし、時間ができれば会いに行った。節目には贈り物も欠かさなかったし、大切に思っていると言葉でも伝えた。でも、彼女にこう言われたそうだ。
『あなたが私を大切にしてくれているのはわかる。でもそれは私に愛情があるからじゃない。……私は、義務として愛されるのは嫌なの』