これを愛と呼ばぬなら
「きっとあなたの恋人は、心からあなたのことを愛していたんだと思います。私だったら愛していた人がずっと傷ついたままでいたらその方がつらい。あなたには、自分がそうできなかった分、彼女の幸せを祈る権利があると思います」

 もっとうまく伝えられたらいいのに。やはり私には気の利いた言葉なんてかけられない。

 でもひょっとしたら、彼にも伝わったのかもしれない。新井さんはしばらく考え込むようにしたあと、私を見てただ一言「ありがとう」と言った。お互いに顔を見合わせ、静かな笑みを浮かべる。

 私の言葉が彼に伝わった。それだけのことで、気持ちが明るくなる自分がいる。彼の気持ちも、少しだけでも軽くなっていたらいいのに。そう願いながら、コーヒーのカップを口に運ぶ。


 コーヒーを飲み干した後で、あっと思い出した。プレゼントのことだ。

「そういえば、新井さんの落し物を預かってるんです。青い包装紙に包まれた小さな箱なんですけど」

 箱、と聞いたところで、新井さんは苦笑いを浮かべた。

「……彼女に渡すはずだった婚約指輪だと思います。どこに行ったんだろうって思ってた。でも、今さら僕のところに返って来ても……」

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