これを愛と呼ばぬなら
新井さんの運転する車が、私のマンションの前で静かに停止した。
彼は相変わらず穏やかで、最近起きたことや知り合った人の話を面白おかしく話してくれて、会社から三十分の道のりがあっという間だった。
「ありがとうございました」
軽く息を吐いて、シートベルトを外す。このまま別れてしまうのが名残惜しい。そう思うくらい楽しい時間だった。
「迷惑じゃないなら、部屋まで送るよ」
車内灯の下、新井さんの心配そうな瞳とぶつかった。
私の部屋はマンションの五階で、エレベーターを使う。もし知らない誰かと一緒になったら、またさっきのようにパニックにならないとも限らない。
「ありがとうございます。……助かります」
「わかった」
きっと新井さんも同じように思っていたのだろう。私がお礼を言うと、新井さんはあからさまにホッとした顔をした。
二人で車を降りて、エレベーターホールへと向かった。エレベーターを降りると、廊下の蛍光灯が緩やかなリズムで点滅していた。
「蛍光灯が切れそうだ。管理人に連絡した方がいい」
僅かに顔をしかめ、新井さんが言う。