【BL】お荷物くんの奮闘記
「……オレはさ、なんの能力も持たずにいきなりここに放り出された。凡人だ。だから特別な立場ってのは分からねえし、分かってもやれない。けど……情けない思いも、悔しい思いも分かる」


 彼も本当は、今すぐにでも地上に出て街の様子を見に行きたいはずだ。こんな遠い空からではなく。


「おまえがここを動かないことを責めるつもりはないさ。助けられない人が目の前に居ても、それは見殺しなんかじゃない」


 勇気を武器に世界を変えられるのが勇者で、主人公なら、自分には最初からその資格なんてない。

諦めるのも慣れっこで、勇気なんてのは状況に合わせて持ったり持たなかったりして処世するものだと思っている。


 そんな自分にだって意地はある。安っぽいプライドもある。弟分に戦わせて自分だけ逃げようとか、自分だけ助かろうとか、そんなことはできない。


「何ができるっていうんだ」


「なんもできねえだろうな。ここに残る限りは」


 笑いかける。力が抜け、かろうじて袖に絡んでいた彼の指をそっと解いた。


「オレは行きたいから行く。オレにおまえを責める権利がないように、おまえにオレを止める権利だってねえ」
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