職場恋愛
side 結



お腹の激痛と格闘して20分くらい。
やっと治った頃には私が引きこもってから1時間も経っていた。


これ以上迷惑をかけるわけにはいかない、っていうのとつり目さんに言われた『早い方がいい』っていうのを思い出して、早まる心臓の鼓動を感じながら恐る恐るトイレを出た。



トイレから手当てしてもらったベンチ方面に少し歩くと、道の端に寄りかかってスマホをいじる航がいた。


…なんて声をかけたらいいんだろう。
あんなことを言ってしまった後に。


嫌いじゃないし、死んでほしくない。でも、どうしたら信じてもらえるかな。


またりんちゃんさんの話をされたら、どうしよう。
それで振られたら、どうしよう。



「……結?」



私がぼーっと突っ立ってたもんだから声をかけるより先に見つかってしまった。


「あ…あの……ごめ…」


「ごめん」


航は私が謝ろうとしたのをわざと遮って頭を下げて来た。


「結、ごめん」


顔を上げてもう1度、次は目を見て謝られた。


「俺、アホだからさ、今まで自分がいじめられたり嫌われたり振られた理由が未だによく分かってないんだよね。今も、結を怒らせてしまった原因を分かってない」


いじめられて気付かないのは確かに、…アホなのかもしれないけど。

誰にでも優しすぎるから振られるってことは少し考えれば分かるはず。


どうして分からないの?



「結が俺を嫌いでも俺は結を嫌いになれない。何が嫌だったのかを教えてはくれないかな?」


まっすぐ正直に分からないと言ってくれるのは素晴らしいと思う。
でも、私が教えたら自分で気付くことができずに終わってしまう。

そうなったら、これから先も同じことの繰り返しになるんじゃないかな。



「…さっきは大っ嫌いとか死ねばいいって言っちゃったけど、あれは勢いで言ってしまっただけでそんなことは思ってなかったの。
でも、正直、今の航とは少し距離を置きたい。この旅行の間は頑張って普通にするけど、帰ったら、一旦考えたい」


さっきまで振られたらどうしようって考えてたのに、まさか私からこんなことを言うなんて。


「…そっか。俺の無神経さで傷付けてごめんね」


無神経って分かってるじゃん。
そこまで分かってて、どうしてその先が分からないの?
航は頭が良くて優しくてかっこいいのに、どうして恋愛はそんなに鈍感なの?


付き合ってきた人数も少なくないはずなのに。




私にはあなたが分からないよ。
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