俺様Dr.に愛されすぎて
「なら、どうしたら信じてくれる?」
低い声でささやいて、視線を合わせるように、真木先生は私の顔を下から覗き込む。
近づく顔の距離から、先日のキスがよりいっそう鮮明に思い出されてしまい……。
「っ……しっ知りません!!!」
大きな声で叫ぶように言いながらその体を突き飛ばす。
突然勢いよく突き飛ばされるとは思わなかったのだろう。
彼がよろけた隙に、私はバタバタとその場を駆け出した。
な、なに、なに今の!!!
好きだとか、本気だとか、どうしたらとか……そんなこと言われるなんて、思わなかった。
『なに本気にしてるんだよ』って、笑われるんだとばかり思っていた。
だからこそ余計に、どんな顔をしていいかがわからない。
そのひと言ひと言が、耳から離れない。
思い出すたび、熱い。
きっと今、耳まで真っ赤になっているのだろう。院内を足早に歩きながら、熱い頬を両手でおさえた。
いや、嘘だ。絶対嘘。さっきのだって、私を試しているんだ。
胸に言い聞かせても、まだ顔は熱くて、涼しい顔で流せない自分が憎い。
本気になんてするもんか!あんなセリフ、誰にだって言ってるかもしれないし……。
そうドキドキと鳴る胸を落ち着かせようとした、その一方で、ふと思い出すのは何年も前の記憶。
『俺、沙織が好きだよ。沙織だけがいてくれればいいって、本気で思ってる』
そんな甘いセリフに騙されて、泣いた、情けない過去のこと。
それひとつを思い出しただけで、それまでドキドキとしていた胸は一気に冷静さを取り戻す。
……ない。本気なんて、ありえない。
過去の彼のように、真木先生も、からかっているだけ。
先ほど感じたときめきの分、今度は一気に胸に痛みが押し寄せた。