俺様Dr.に愛されすぎて



「……あの、もう、行かないと」



その言葉に、彼はぎゅうっと抱きしめる腕に力を込める。まるで子供が『離したくない』と駄々をこねるかのようだ。

けれどこのままではいられない、となだめるようにその胸元を軽く叩く。



「すみません、服今度返しにきます」



渋々、というように離れた腕に、私は鞄と濡れた服を手に部屋を出た。





……初めて見た、表情。

いつもは、笑顔で、凛としている。そんな彼の、動揺。

それがなぜか、嬉しいと感じる自分もいて。



『冷静で、いられなくなる』



……なんて、そんな。

彼のひと言が、また胸をドキドキさせる。



「……はぁ」



パーカーの袖をくん、と嗅ぐと、爽やかな洗剤と真木先生の香りがした。

ずっと、抱きしめられ続けているみたいな、錯覚を覚える。



……思わぬ、幸せの日。

占い1位は、あながち間違いではなかったかもしれない。






< 42 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop