俺様Dr.に愛されすぎて
「で?今日はどうした?営業にしては随分遅いけど」
「あ……いえ、今日は仕事じゃなくて。この前のパーカーを、返しに」
言いながら紙袋を渡すと、真木先生は「あぁ」と納得する。
「別に今度でよかったのに。けどまぁ、わざわざありがとな」
そして受け取ると、なにげなしに駐車場を見回した。
「今日は車は?」
「いえ、仕事終わりなので電車で」
「そうか。なら送る」
思わぬ提案に、驚きから「えっ!」と声が出る。
「でも、私の家池袋方面だから結構距離ありますよ?」
「その結構な距離をわざわざ来てくれたお礼。行くぞ」
真木先生はそう言うと、私の腕を引き歩き出した。
お、送るって……いいのかな。
仕事終わりで疲れてるだろうに、わざわざ家の方まで、ていうか車って!ふたりきりだ!
どうしよう、なにを話せばいいんだろう。そう頭の中をぐるぐるとめぐらせる。
けれど、有無を言わさず引っ張る少し強引なその腕が、嬉しく感じる自分もいる。
ドキ、とまた音を立てる胸に、ごぶしをぎゅっと握った。
駐車場の奥の方へと歩いてくると、真木先生は一台の白い乗用車の前で足を止めた。
「助手席、どうぞ」
言いながら助手席のドアを開ける彼に、なんと言っていいかわからなくて、「お邪魔します」とつぶやいて車に乗った。
バタン、と閉じられるドアの音を聞きながら車内を見回すと、芳香剤やクッションのひとつもない、飾り気のないはまだ真新しい匂いがした。