あなたのことは絶対に好きになれない!
そのまま無言で手を引っ張られながら、部屋に連れて来られる。

鍵は開いていたから、おそらく私の姿がベランダから見えたために降りてきたのだろう。


……オウスケくんはいつも意地悪だ。だけど、決して冷たくはない。
だから、こんな風にずっと無言でいられると……どうしたらいいか分からなくなる。


「ね、ねえ。何か怒ってる?」

「何も」

短くそう答えた彼は、リビングのソファに私を無理矢理座らせる。そして、自分もその横にドカッと腰をおろした。
彼らしくない乱雑な所作に、胸がざわつく。


「さ、さっき抱き締められたのは突然のことで、抵抗も出来なくて……」

「別にそんなこと聞いてないけど」

「じゃ、じゃあ何で怒ってるの」

さっきから目を合わせてくれないから、余計に不安になる。
何を言っても言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、康太くんに抱き締められてしまったのは事実だ。それを怒っているのなら謝りたい。
だけど、こっちを向いてくれない。


どうしよう、と困っていると、不意に彼と目が合う。
でも、その目は酷く冷たくて。
目が合って安心するどころか、緊張で全身がひやりとした。


「オウスケくん……?」

「……さっきのことならどうでもいいよ。それより、さっさとキスさせろよ」

「……え?」

「そんで、早くヤらせて。クミだってそのつもりでここまで来たんだろ?」


そ、それは……


違くはない、けど……。



「ま、待って。話そう? 怒ってるよね?」

「だから怒ってない」

「う、嘘だ」

この雰囲気のまま、そんなことしたくない。
私はもっと、幸せを感じながらこの夜を過ごしたい……。

今の彼の言い方じゃ、まるで身体を重ねることに理由なんてないみたいでーー


その時、急にさっきの康太くんの言葉を思い出す。


『彼氏の方は? 本当に久美香ちゃんのこと好きなの?』

『またいじめようと思って近付いてるだけじゃない?』


そんなこと絶対にないってさっきは強く思っていたのに。


……なのに。


急に不安な気持ちでいっぱいになる。
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