キミと初恋。
心を落ち着かせようとして取った行動だったけど、全然落ち着かない。


「やっぱりここか」

「ひぇっ!」


そんな声が背後から聞こえて、私は思わず飛び跳ねて手に持っていたホースが揺れた。


「うわっ!」

「わー! ごめんなさいー!」


私の背後にいたのは水も滴る颯ちゃん。

振り返った先に誰がいるのかなんて、その声を聞けば一発だ。だからこそ私は驚いて、その相手に向けて水をかけてしまった。


「大丈夫ですか!」


私は慌ててカバンの中にあるハンカチを取り出し、颯ちゃんに差し出した。

なんてこった。こんな寒い冬に水ぶっかけるとか……しかも今日は卒業式。卒業生が華やぐ日だというのに……。


「ったく、連絡は無視するわ、水ぶっかけるわ……お前久しぶりでも相変わらずだな」


相変わらずとはどういう意味だろうか。そこはちょっと問いただしたいところだけど、私は静かにそれを聞き流した。


「先輩こそ、どうしたんですか」


連絡は間違いだと思って無視してたのに。

でも無視してた事実もあまりいいものではなさそうだから、その事には触れないでおいた。


「かすみを探してた」

「なんでまた、私を?」


何気ない感じでそう聞き返した。ちゃちゃっと水をまき、そのままホースを閉まった。


颯ちゃんにかかった水は案外少しだけだったから、大丈夫。風邪は、引かないよね? 水もしたたるって程度だよね?

なんて弁護がましく自分にそう言い聞かせてると、ふと颯ちゃんの片手がずっと後ろにあるのが気になって覗こうとしたら……。


< 176 / 204 >

この作品をシェア

pagetop