キミと初恋。
「あの時の返事をしに来た」


あの時の返事……?

そう思って首を傾げていたら、颯ちゃんは後ろ手にしていた手を私に差し出した。


「あっ……」


真っ白い、雪。

雪が私の前に広がった。


「お前、言い逃げとか卑怯だろ」


颯ちゃんの片手には私の渡したハンカチと、もう一方の手には白い無数のかすみ草の花束ーー。


かすみ草の花言葉は“清らかな心”、“無邪気”、“親切”、そしてもうひとつ。


「ありがとうな」



“感謝”



「い、いえ……」


今さらそんなわざわざ。律儀な真似なんてしなくていいんですけど……。むしろあれは、私の自己満で、しかも返事が欲しかったわけじゃないんで……。


返事されちゃったら、本当に終わるじゃないですか。もう、すっかり終わってしまってた恋だけど、本当に結果までついてきちゃうじゃないですか。

結果はいらなかったのに。だって答えならとっくに知ってましたから。言われなくたって分かってましたから。

私は話をごまかすみたいに、話題をふった。


「……この、かすみ草どうしたんですか?」


かすみ草のシーズンでもないのに。こんなにたくさん。

私はそっと颯ちゃんからそれを受け取って、それを抱きしめるみたいにして抱えた。


「俺を誰だと思ってんだよ。花屋の息子をなめんなよ」

「あははっ、そんな自慢の仕方あります? でも先輩、こんなのよく持ってましたね。みんなに騒がれて仕方なかったんじゃないですか?」

「だから先生に預かってもらってた。んでこっそり返してもらってな」

「へぇ……」


私は改めて颯ちゃんがくれたブーケを、そっと抱きしめた。


< 177 / 204 >

この作品をシェア

pagetop