キミと初恋。
お姉ちゃんは驚いた顔でその場に立ち止まっている。

まるでビデオを一時停止している時のように、ピタリと止まっている。お姉ちゃんの綺麗な顔が、視線が、私と颯ちゃんをとらえていた。


「……風花」


ぼそりと呟いたその言葉を、私は聞き逃したりはしなかった。

胃の中がひっくり返った感覚とか、熱のせいで体の節々が痛いとか、頭がくらくらしてるとか、そういったこと全てをどこかに置き去りにして、私は勢いよく颯ちゃんを見やった。

するとそこには、お姉ちゃんと同じ驚いたような顔で停止している颯ちゃんがいた。

私の手や肩を抱いていた颯ちゃんの大きな手は、今はもう力もない。

そこに熱さえ感じなくなるほどに。


思わず込み上げてきた涙に負けないよう、私はぐっと奥歯を噛み締めて、顔を上げた。

本当は俯いてしまいたかったけど、そうすると瞳に溜まった涙がこぼれ落ちてしまう。どうしてもそれだけは避けたかった。


私はゆっくりと颯ちゃんの手を解いた。



ーー私はやっぱり、ヒロインにはなれなかったんだ。


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