キミと初恋。
お姉ちゃんがその場を去る直前、もう一度だけこちらを見て、にっこりと微笑んだ。

その笑顔はさっきまでの営業スマイルとは違って私のよく知る優しいお姉ちゃんの笑顔だった。


そっと降ろされた腕。だけど手はギュッと握られたまま。


颯ちゃんは空いた方の手で、まるで蓋をするみたいに私の瞼に手を重ねた。



「……泣くなよ。泣かせる気なんてなかったんだ」



分かってます。颯ちゃんがそんな気ない事は知ってます。

だってお姉ちゃんがここでイベントするって知らなかったでしょ? あの時、お姉ちゃんを見つけた時の颯ちゃんの顔が、その事を物語ってた。


「……なぁ、かすみ。お前やっぱ熱いぞ? おい、かすみ!」


私は颯ちゃんにもたれかかるようにして、なんとか立つことができた。

ううん、もたれかかってる地点で立ててないんだけども。


「……颯ちゃんごめん、気持ち悪い」

「はっ⁈ ちょっ、かすみ」


私はそのまましゃがみ込み、胃の中のものを全て吐き出した。


< 198 / 204 >

この作品をシェア

pagetop