キミと初恋。
「俺さ、実はこいつの事好きなんだ」


そう言って、先輩は私に小さく微笑んだ。

周りから見たらきっと胸を焦がすような微笑みかもしれない。けど、これは決してそうじゃないって事を私だけは理解している。


「嘘よ!」

「何かの間違いでしょ⁉︎ 有り得ない!」

「この世の終わりだ!」


……なんていう聴衆の勝手な言葉が私達の周りでわき起こる。

それはとどまることを知らない、私を蔑む誹謗中傷の嵐だ。


「せっ、先輩! そんな話ひとつも聞いてないです!」


勝手な事を言うな! そう思って異論を唱える私の拳を握りしめて、さらに囁くように言葉を続ける。


「そりゃそうだ。ずっと隠してたんだからな」


なんて、普段からは想像も出来ないほど、甘く優しく言葉を紡いでいく先輩は、超ノリノリだ。

ノリノリで私に片想いをしているという男子を演じている。

そんな演劇部顔負けの先輩の様子に、外野は更に盛り上がる。

女子はこの世の終わりとでも言いたげの悲鳴、男子は盛り上がるネタでも枯渇していたかのように、更に煽ろうとするヤジの嵐。


私の手を握る先輩の手に反応を示している輩もいるけど、これは殴られないように先輩が私の拳をガードしているだけに過ぎないのだ。


「いや、そうじゃなくて……私友達としてって話でしたよね」

「悪い、それは嘘だったんだ。実は俺もあったんだ、下心ってやつが」


なんてハニカミながら先輩は俯いた。

その様子に辺りは更にエスカレートして盛り上がっている。

完全に観衆は騙されているようだ。

だけど、本当はそうじゃない。当たり前だけど、先輩は私に片想いなんてしてない。周りからは分からないだろうけど、俯いた先輩の方は小刻みに震えている。

俯いて、彼は声を殺して笑っているのだ。


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