キミと初恋。
「それって、もちろん先輩の奢りですよね?」

「はー? なんでだよ」


先輩がここぞとばかりに顔をしかめるから、私は濡れた髪をひとふさ持ち上げた。


「もう夏も終わって秋に近づくこの季節、さすがにこれは冷たいなーって思うんですよねー」


この言葉はさすがに効いたようだ。先輩はバツの悪そうな顔をして、黙って頷いた。


「しょうがねーな」

「ご馳走様です」


そうと決まれば早速門へと向かう先輩。荷物はどうするんだろうって思ったけど、先輩も取りに戻る様子はないし、私も戻る気はない。

今教室に戻る事を避けるためご飯食べに行く誘いにのったのだから、取りに戻るようでは意味がない。

あいにく私達は財布とケータイだけは持ってるし、なんなら家の鍵もポケットに入ってる。これだけあれば十分だ。


「なぁ、お前チャリ通?」

「電車通学です」

「なんだ、一緒か。チャリだったらそれ使おうと思ってたのにな」

「先輩だって持ってないのに使えねーヤツ的な言い方しないで下さいよ」

「ははっ、お前ほんと裏読みばっかするんだなー。そんなつもりで聞いたんじゃないって。あるなら乗ろうと思っただけだろ」


すみませんね、裏読みばっかりする卑屈なヤツで。

でも、先輩も私も自転車通学じゃなくて良かった。私先輩と二人乗りする自信はない。

いくらなんでも、それはドキドキしてしまって、今よりももっと先輩の事を好きになってしまったら困る。本当に困る。

それだけは間違えても起きてはならない事だ。


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