恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
何?
どういうこと?


紙切れを再び折りたたんで手のひらに握り込む。


ひとりで、この時間に抜け出せってことだろうか。
混乱した頭で考えても、出てくる答えがこれしかない。


田倉さんは、お手洗だったのだろう。
すぐに戻ってきたけれど、それきり私と目を合わせようともしない。



「一花ちゃん? どうしたの?」

「えっ?! いえ、なんでも! すみませんぼーっとして」



足立さんに話しかけられて、辛うじて会話に応じていたものの、何を話していたやらさっぱりわからないくらいに気がそぞろだった。


田倉さんと
抜け出したら、どうなる?


どうなるもこうなるも、予測はワンパターン。


こんな意味深な、脅しみたいな誘い方、不純なことしか思い浮かばないわけで。
当然、私だって考えた。


東屋さんに、なんて相談しようかと。

どうやって伝えよう。
ラインで送る?


すぐ気付くかな。
声かけて、ちょっと外に出てもらうとか。


田倉さんが見てる前で?
ひとりで来いって言われてるのに、東屋さんに相談したってバレたらまずいよね。


それで行かなかったら、東屋さんに「行くな」って言われたから、になってしまう。


いや、待って。
そもそも、なんて相談するの。


誘われたけど、どうしたらいいですか?って?


行く必要ないって言ってくれる。
基本優しいもん、口は悪いけど。


でも、田倉さんにお断りするのを、東屋さんにさせるの?
それって今後、田倉さんの東屋さんに対する心証を悪くさせるよね。


考えてる時間は、あまりなかった。
紙に書かれた時間はすぐに迫って、五分前。


みんなすっかり酔って思い思いに盛り上がる中、再び田倉さんが座敷を抜け出した。


行くしかない。
私もハンカチと携帯だけ持って、残り五分を待たずに席を立つ。


襖が閉まる直前、東屋さんと確かに目が合った。

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