恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
込み上げてくる感情が、今すぐ嗚咽で溢れ出しそうだった。
私を差し出してまで得る仕事はいらないって言ってくれた。
だけど同時に、それが東屋さんにとってどういう状況なのかも知る。
―――なんとでもなるから。
それは、私が思っていた意味とは違っていて。
「クソガキが、虚勢張ってもろくなことないぞ」
「そうでもないですよ。どうぞ、お気に触ったなら破棄するなりクレーム入れるなり好きにしてください。別にこの案件が俺の評価の全てじゃないし、それに」
それなのに何の迷いもない横顔に、どうしようもなく、息ができないくらいに嬉しい。
東屋さんはただ、同じ会社の仲間として、私をかばってくれただけだってちゃんと解ってても嬉しい。
「アンタに応じてこの先ずっと足元見られるなんて冗談じゃない。アンタの方こそ、いつまでも馬鹿なことしてないで地盤固め直したほうがいいんじゃないの」
「何だと?」
「メーカーがクソほどあるのと同じように、工務店だって山ほどあんの。全部のメーカーがアンタの理不尽な要求に応えたわけじゃないでしょう。掬われるのは足からですよ、田倉さん」
ぐ、っと強く東屋さんの手が私の腕を握る。
店に取って返す方へ踵を返すその瞬間まで、東屋さんは不敵な笑顔を絶やさなかった。
田倉さんをその場に残し、東屋さんに引きずられるようにして店の玄関まで戻る。
「あ、東屋さんっ……」
こんなことして大丈夫なのだろうか、いやそんなはずはない。
だけど心配する私を余所に、まるで腹の底から絞り出したような東屋さんの本音が漏れる。
「あーむかつく。みてろよその足元いつか掬うのは俺だからな」
口元だけは笑ったままで、ぴきぴきとその横顔は強張っていた。