恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】

「え」


ぽん、と背中を叩いてから本当にすぐに社食を出て行く後ろ姿を、ぽかんと見送る。
そして、時間差で気恥ずかしさに襲われた。


ちょ、ちょっと顔見る為だけに、ここに寄ってくれたってことかな?
嬉しいけど、みんな見てるのに。


案の定、柳原さんが関心したようにため息混じりに言った。


「はああ、一花さんにべったべたの東屋くんもそろそろやっと見慣れた頃なんだけど、一番違和感あったの『西原さん』だわ」

「あ、私もびっくりして固まってしまいました」


だって、あの東屋さんが。
二人で西原さんに視線を向けると、彼女も苦笑いをして、こう言った。


「何日前だったかな? 私もいきなり呼ばれてコーヒー吹いた」

「そら吹くわ。注意し続けて何年越しよ」

「びっくりしたよ。西原さんじゃなくなる前に言うこと聞いとこうと思いまして、ってしれーっと言われた」


もう、お姉さん嬉しくて……と西原さんが泣き真似をする。
私は笑いながら、残されたままになってたプリンに漸く手を付けた。


『さよさん』


それは、東屋さんが入社して西原さんに指導してもらった頃からだと聞いてる。


随分長い間の習慣を覆したのだと思ったら、ちょっとだけ心配になった。
無理して欲しいわけじゃないから、これが自然な流れだといいなって。


だけど、それ以上にやっぱりうれしかった。
少しずつ何かが変わっている気配は、週末のデートを私に意識させ。



「ちょっと。一花さんにやけてるにやけてる」

「えっ! すみませんプリンが美味しくて!」

「嘘つけ。デートのこと考えてたでしょ」



柳原さんに指摘されるくらいに、私は蕩けていたらしい。

< 203 / 310 >

この作品をシェア

pagetop