恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「え?」
問いかけるような呼び方に顔を上げると、東屋さんが首を傾げて私の顔を覗きこんでいた。
簡易トレーを片手で持ち直し、私の前髪を指で避けじっと私を見下ろす。
「え、何ですか」
「いや。なんか変な顔だった」
「酷くないですかそれ」
「腹でも痛い?」
「違いますっ」
さっきの出来事に動揺したのが、またしても顔に出ていたのかもしれない。
覚悟はしてても、悪意を向けられるのは結構堪えるものなのだなと知る。
でもそれよりも、言葉にしなくても気付いてくれたことが嬉しくて、充分過ぎるくらい幸せだった。
「何もないです、ほんとに」
そう言って笑うと、東屋さんも訝しい表情を少し和らげた。
きっと今はもういつものへらへらした私に戻れているからだと思う。
好きな人の言葉ひとつ、たったそれだけで何だって平気でいられる。
シアタールームに入って座席番号を見つけ、ドリンクホルダーに飲み物を置いたりしてるうちに、すぐに上映開始の音が鳴る。
ゆっくりと灯りが落とされていく。
楽しみにしていた映画が始まるそのワクワク感が、ひたすら上昇中の幸せ指数を刺激して気持ちは舞い上がる。
スクリーンを真直ぐ見ながら、満タンに溜まった気持ちがぽろっと零れた。
「嬉しい。幸せ過ぎて明日死んでも仕方ないです」
「映画くらいで何を大袈裟な」
「大好きな人とこうしていられるのが、です」
真っ暗になった館内と、がちゃがちゃと映画の予告が流される賑やかなスクリーンに紛れてだから、どもらずに言えたのかも。
真直ぐ顔を見ながらなら、照れてしまってこうも自然には言えなかった。
二人の間の肘置きに置いた手が、東屋さんの大きな手に包まれる。
気恥ずかしくて真直ぐスクリーンだけ見ていたら、急に私の耳元に顔が寄せられ囁かれた。