恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】


「俺も」


音響の中邪魔されないように、耳に吹き込むように言われた言葉、たった一言三文字。
数瞬、目が点になった。


俺も。
何が俺も?


その『も』はどこにかかってるのか。
当たり前に考えれば、その一つ前の私の言葉に繋がるわけで。


寄せられていた顔が、離れていく気配にぱっと横を見る。
だけど、手で顔を持たれてくるっと正面を向かされる。


「東屋さ、」

「よそ見しないで前向いてろよ」

「そん、」

「こっち向いたらキスしまくるよ」


ひっ?!
こんな公衆の面前で?! しかも子供も結構いるのに?!


慌てて向きかけていた顔を正面に戻して固まった。


な、なんで?
なんで顔見たらいけないの?


ハテナマークが脳内を漂う中、私は『俺も』の意味を考えていて、だけどどれだけ考えても、どうしよう、答えが一つしか見つからない。


――幸せです
――大好きな人とこうしていられるのが


東屋さんも、同じように感じてくれてるっていう意味であってるのかな。
確かめたくて東屋さんの方を見ようとしても、その度手が顔に押し付けられてかなわない。


この塩対応は相変わらずだけど、信じてもいいのかな?


スクリーンを真直ぐ見つめながら、じんと目の奥が熱くなる。
ず、と鼻を鳴らしたら、肘掛で重ねられていた手がぎゅっと握りしめられた。


本編が始まっても、すっかり頭の中は東屋さん一色で、他に何も考えられない。
気もそぞろでほわほわして、序盤全然ストーリーが頭に入って来なかった。

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