恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
帰りの手段に彼が何も言わずにタクシーを選び、私も黙って従ったのは、互いにきっと同じ気持ちだったのかな、と思う。
一分でも早く、帰りたかった。
二人になりたかった。
タクシーの中で他愛ない会話をしていた時、彼は時々意地悪を言うけれど、声も触れる指先もとても穏やかで優しい。
腕に絡んで離れたくないと意思表示するのが精一杯の私から見れば、彼はとても余裕のある大人に見えたのだけど。
東屋さんのマンションに帰り着いてすぐ、彼も案外急いていたのだと気付かされる。
靴を脱いだ途端、まだ玄関上がってすぐだというのに、いきなり強く後ろから抱き締められたのだ。
「あ、東屋さ……」
後ろから彼が何も言わずにくちづけたのは、耳の少し下、最初に痕をつけられた場所。
「待って、東屋さ、ん、」
「んー?」
「汗がっ……、今日、暑くて、」
話す間も彼が唇を肌から離す様子がなくて、私は気が気じゃない。
汗の匂いがしたらと思うと、恥ずかしくてたまらなくて。