恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】



エンパイアラインのウェディングドレスは、ほっそりとした西原さんによく似合っていた。
お腹はまだそれほど目立ってなくて、胸のすぐ下の切り替え部分が刺繍とビーズで装飾され、そこからたっぷりのシフォン生地が足元まで柔らかなラインを作る。


手には、真っ白いバラのブーケ。
纏めてサイドに流した黒髪にも、白の小さな薔薇がたくさん飾られていて、可愛らしくも大人っぽい、そしてとても、綺麗。


藤堂部長は一緒に歩くとき常に西原さんの足元を気遣っていた。
無論、藤堂部長だってとても素敵だけど、結婚式はやっぱり花嫁さんが主役だ。


ほんのりと頬を染める彼女は、余りにも幸せそうで……披露宴終盤、感極まって潤む瞳には私ももらい泣きしてしまった。




手に引き出物の紙袋を持ち、披露宴会場を出て洒落た石畳の広場を歩く。
目の前には真っ青な海が広がっていて、広場の端はすぐに海で、落下防止の柵が拵えてある。


綺麗な景色に気分ははしゃいで、私はかずくんよりも少し早足で海沿いに向かう。
まだ残暑は厳しいけれど海風は心地よかった。


「素敵な披露宴でしたね!」

「そうだね」

「西原さん綺麗だった」

「紗世、もらい泣きしてた」

「そりゃ、泣けますよ。かずくんは? ちょっとうるってしなかったですか?」

「結婚式で泣けるのって女の子くらいじゃない?」


ざあ、と一際強く海から風が吹いて、ワンピースの裾がたなびいて、薔薇のブーケを持った手で抑えた。


ブーケは、西原さんが披露宴の後、私にくれたのだ。
幸せの御裾分けをいただいたみたいで、とても嬉しかった。


潮の香がする。
深く吸い込んで目を閉じると、自分の心の中が、とても穏やかに満たされていることに気が付いた。


少し前の私ならこんな気持ちではいられなかった。
きっと、ちくちくと痛む胸を隠して、彼の横顔を見ることができなかったかもしれない。

< 309 / 310 >

この作品をシェア

pagetop