恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「京介くん!」
「紗世ちゃん」
駆け寄ると、彼は予想に反して酷く穏やかに笑った。
怒っているか冷たい目で見られるか、とばかり思っていた私は、少しほっとしながらも何か違和感を抱かずにはいられなかった。
「あの、京介くん……」
「仕事お疲れ。ちゃんと食べずに帰ってきた?」
「あ、うん。それで、近くのカフェでご飯食べながら話出来ないかと思って」
「いやいや。今日は俺が作ろうと思ってさ」
「え?」
ほら、と彼に見せられたスーパーの袋の中には、どっさと食材が入っていた。
「いっつも紗世ちゃんに作ってもらってばっかりだし。こないだ店で出た賄いが美味くて、作り方聞いて来たんだよ」
だから紗世ちゃんにも食べさせたくてさ。
と、屈託なく笑う彼に、違和感は確定した。
「紗世ちゃん、早く開けて。お菓子とかも買い過ぎて結構重い」
「え、あ…………、うん」
あくまでも穏やかで優しい、いつもの京介くんだった。
だけどそれが余計に、私にこの状況がこれでいいのか考えさせる材料になる。
このまま、入れていいのかな。
これから別れ話するのに?
玄関扉を正面に、京介くんが真後ろにいる。
その空気が、なんだか少し怖い。
鞄の中を手探りで鍵を探しながら迷った。
もしも、京介くんが冷静に話を聞いてくれそうな雰囲気なら、躊躇いながらも入れたかもしれない。
だけど今の京介くんは、話を聞きに来たようには見えない。