恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「二人で飯食って、仲直り。今日はゆっくりしよう。な」
「京介くん」
がさ、とビニール袋が揺れる。
京介君の手が、私が握る鍵を取ろうとしたのだと思う。
つい咄嗟に払いのけてしまい、京介くんの表情が瞬時に固まった後、ゆっくりと歪んでいった。
「ごめん」
「紗世ちゃん」
「他に、好きな人が出来た、から」
出来たから。
そこで言葉を止めて、相手に察してもらおうとするのは、卑怯な気がした。
「だから、もう付き合えない。ごめんなさい、別れてください」
ああ、そういえば。
私から別れを切り出すのは初めてだ。
京介くんの顔を見て、酷い後悔に襲われる。
抑が、お試しだなんて軽い気持ちで付き合ったりしてはいけなかったんだ。
例えお試しでも、相手が真剣に思ってくれればくれるほど、自分にも覚悟がいるのだと今更知る。
別れる時に互いに苦しいということを、漠然としか考えていなかった。
気まずい沈黙の中、鍵を握りしめた拳から、チャームの鈴だけが零れて揺れる。
しゃらん、と軽やかな鈴の音がその場にはそぐわなくて、もう一度握り込む。
代わりに、長い溜息の音がした。
その場にしゃがみ込んで、片手で額を覆った京介君から。
「……歓迎会の夜、その人と一緒に居たんだ?」
手の中から、顔を上げた彼に、小さく頷いた。
「……なんか、予感はあったんだよな」
「え?」
「紗世ちゃんが仕事の話するたび、気になってた。そいつの話になると、電話越しでもわかるくらい声が弾むんだもんな。同じ奴だろ、全部。俺には触らせなかったくせにそいつとは寝たんだ」