社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
「あ、島田さんか河合さん、これから来客予定だからお茶準備してもらえるかい?」
パソコンと向き合い、資料の作成を始めようとすると背後にいる部長から声がかかった。
「あ、はい。私行きます」
今仕事を多く抱えているはずの島田さんより先に振り返り、そう答えると「よろしくね」と残した部長が去って行った。
「ごめん、美帆ちゃん。お願いね」
「いえいえ。任せてください」
「助かる。ありがとう」
両手を合わせて眉尻を下げた島田さん。彼女がパソコンの方に顔を向けたと同時にイスから立ち上がった私は、給湯室へと向かった。
「美帆」
「あ、真樹。おはよう。出勤時刻に間に合った?」
給湯室までの廊下を歩いている途中、背後から声がかかり振り返る。すると、そこには真樹がいて、私はいつも通り仲の良い恋人を演じ始めた。
「うん。間に合ったよ。それより、ちょっとだけ時間いい?」
「え、うん。少しだけなら」
「分かった。ちょっと、こっち来て」
真樹が私の先を歩き始めた。大人しく言われた通りに彼の後ろをついて歩くと、彼は人気の少ない非常出口の前で立ち止まった。