コバルトブルーの誘惑
手を振りほどく事が出来ないまま、スカイツリーのエレベーターを登りきり、
ふたりで歓声をあげながら、窓の外を眺めた。
遠くまで東京の街が見渡せ、電車や、川の流れがよくわかる。
人が歩いているのが本当に小さく見え、車もオモチャみたいだ。


記念撮影のブースで、嶺緒は私を引っ張って列に並ぶ。
子どもみたいだ。

キャラクター達に囲まれ、並んでソファーに座って肩を抱かれて写真に収まる。
サービスでスマホでも撮ってくれ、お互いのスマホにもツーショットの写真が収められた。

嶺緒は満足げにプリントされた写真を見て、
肩に付けたバッグに入れ、また窓に寄って、小さく見える東京の街を眺めた。


その写真って…どうするの?
スマホの写真はすぐに消せるけど…
旅行が終わったら
どこかにしまってわからなくなっていくの?
それとも…時折、取り出して眺めるの?


私は嶺緒の親しげなエスコートに戸惑って、ギクシャクと隣に立つ。
回される腕を何度か抜け出し、顔をしかめて見せるけど、
ちっとも嶺緒は気にしないで、指を絡めたり、私の体を抱き寄せたり、顔を覗き込んだりして楽しそうだ。

ここは日本だけど、嶺緒は半分イギリス人でブルーの瞳を持っているので、
彼が私を抱きしめていても、そう、周りは驚いていないみたいだけど…

私はいちいちドキッと、ビクッと、慌てた顔になってしまう。

「そんなにいちいち、反応されると、面白くって、やめられないな。」とクスクス笑って嶺緒は憎たらしい事を言う。

エレベーターの中で隣に立ったカップルが嶺緒の流暢な日本語に少し驚いた瞳をする。

そうなんです。

この人、半分日本人のくせに外国人のフリをして、私に迫ってきてるんです。

と教えたいほど、嶺緒ははっきり、私を口説いているみたいなんだよねえ。





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