極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~
赤信号で停止したときに紬の方を伺い見ると肩をヒクつかせて笑っているではないか。


「なにかおかしなことありました?」
「すまない。ただひとり無言で色んな表情をしているから…見てたら段々おかしくなって、つい笑ってしまった」


考え事してたことが顔に出ていたらしい。

でもそんなに笑われるような顔をしていたつもりはない。
美形じゃないにしても顔を笑われるというのは地味に傷付く。

顔を背け、信号が青に変わったタイミングでアクセルを少しだけ強く踏み込んだ。

すると私の不機嫌さに気付いた紬が声を掛けてきた。


「悪かったよ。笑って。だが、大丈夫だ。きみが美人なのは変な顔しても変わらないから」
「美人じゃないです」


即座に訂正するも、即座に否定されてしまう。


「社内できみのことは噂になってる。『高所恐怖症の美人税理士』って」


余計な文言が気になるけど、エレベーターホールで不審な動きをしているのは私自身だ。


「行動には気を付けないといけないですね」


反省の意を込めてそう返答する。

でもなにも返って来ない。

それが気になって横目で様子を伺うと、なにかを考えるように難しい顔をして遠くを見つめている紬がいた。
そして「今話すべきではないんだが」と前置きをしてから、さっきよりも少し低い声で話し出した。
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