極甘求婚~クールな社長に愛されすぎて~


「ほら、乗るぞ」


待つこと15分。
到着したケーブルカーに嫌々乗り込む。


「あぁー…これはダメです。最悪です。下が見えます」
「それはそうだろ。わざわざ乗り直したんだから…って、わ!」


紬の焦る声に顔だけ振り向くと、どうやら後ろから続々と入って来た登山客に押されてしまっているようだった。


「大丈夫ですか?」


窓枠に腕を伸ばして私の居場所を保持してくれていた紬は険しい顔をして「無理だ」と言った。

そして「すまない」と続けた紬は私の体を後ろからすっぽり包み込んだ。


「ちょ、ちょっと!」


状況的に仕方のないこととは言え、抱き締められるという行為はどうにもこうにも恥ずかしくて堪え難い。


「悪い。だが少しの時間だから我慢してくれ」


耳元で囁く声と降り掛かる吐息に全身が一気に熱くなり、もう目の前の景色どころじゃない。
それなのにしばらく登った頃、また耳元で低い声が語り掛けて来た。


「目を開けられるか?夏空と新緑が綺麗だ」


無意識のうちに閉じていた目。
それをゆっくり開ければ視界の両サイドに青々とした木々が、そしてその間からは真っ青な空と白い入道雲が飛び込んできた。
緑と青と白のコントラストに感嘆の声が出る。


「わー…ほんとに綺麗」
「だろ?」


たった二文字の言葉だけど、紬がドヤ顔で笑ったような気がして口元が緩む。
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