リト・ノート
その後2学期になっても、あの時ほど長く美雨が羽鳥と話す機会はなかった。

10月の体育祭ではリレーアンカーをつとめた羽鳥はまた学校中を沸かせたし、下級生に囲まれている姿も見かけた。

11月に行われた第3回ビブリオバトルにもまた出場して、どうみても羽鳥のファン投票みたいな形で優勝してひんしゅくを買った。

もしかして誰かと付き合うかもしれないという不安もあったが、どうやらすべて断っているらしかった。受験が終わるまでそれどころじゃないということらしく、合格した途端にまた告白する女子がいるだろうということは想像できた。



冬が深まった頃、美雨は掃除当番でゴミ箱を持ち校舎裏に向かっていた。登下校中と違ってマフラーのない首元は寒すぎて、震えながら速足になる。

「美雨!」と声をかけられ振り返ると、小走りで沙織が追いかけて来ていた。

「寒すぎ、絶対風邪引く!」と自分を抱きしめるように沙織はおどける。

「今熱とか出したくないよね」

近づいて来た受験を思って美雨は答える。

「美雨は、大山受けるんだよね?」

「うん。女子校も受けるから、ママは受かったらそっちに行って欲しいみたいだけど」

母には最終的に自分で選んでいいんだよねとだけ確認してあった。合格したけれど行かないということなら、親戚への顔も立つのではないかと最近美雨は思うようになった。だが第一志望が羽鳥の志望校と同じだということを、特に沙織には言いにくい気がしていた。

「大山かぁ、私にはとても無理だよ」

やっぱりまだ羽鳥のことを、と気になって一瞬反応できなかった。
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