リト・ノート
「え、なんでいきなり沙織?」

戸惑って眉をひそめた羽鳥の様子に、美雨はハッとした。

「ごめん、違うの、沙織は誰とでも話せていいなって思って。かわいいし、それにみんなに優しいし、私とはぜんぜん違うってわかってるから」

言い訳によりますます墓穴を掘って行っている。なんの話だった?そうだ、山根くんだ。何をこんなにイライラしてるんだろうと美雨は反省するがもう遅い。


「クラスだったら誰がいいって話、男だけだと出るんだけど。沙織は普通に人気あるけど、お前がいいって奴も結構いる。おとなしくてかわいいとか言われてるけど」

突然羽鳥が始めた話に、慰めてくれてるらしいと感じてさらに恥ずかしくなる。どうして、どうしてこんなことに、と自分の蒔いた種にうろたえた。

「羽鳥は、どう思ったの?」

「俺? 俺は、どっちかって聞かれたらそりゃ、別にでも、おとなしいとは思わないけど」

答えにくそうにモゴモゴと話すのを、自分の考えにとらわれていた美雨はほとんど聞いていなかった。

「やっぱり私が山根くんのこと好きなように見えたんでしょ?」

「え?いや、そういうことじゃ」

「私ぜんぜん、誰も好きじゃないから」

顔が赤くなったまま、泣きそうな気持ちで羽鳥を睨みつけるように言い切った。

そのまま気まずい空気が流れ、この日は結局一度も手をつながなかった。
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