ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
迷惑かけたくないって思いながら、本音はただ単に傷つきたくないから。もう昔のような嫌な思いをしたくないからだ。

それなのになぜだろうか。謙信くんに言われっぱなしで悔しいと思うのは。

彼が言っていることは正しいのに。それなのになぜ？

抱いた感情に苛立ちと戸惑いを隠せなくなる。


「俺はずっと、すみれの一番の理解者でいたいと思う。……でもすみれ、変わりたいんだよな？　なのにどうして前に進もうとしない？」

「だってっ……！」

「言い訳は聞きたくない」

私の声を遮り言うと謙信くんは立ち上がり、冷たい目で私を見下ろした。

「逃げてばかりで弱虫のすみれの話は、これ以上話したくない」

そんな――。

そう言うと彼は冷蔵庫からミネラルウオーターを取り、こちらを見ることなく書斎に行ってしまった。

バタンとドアが閉まる音が、異様に冷たく聞こえると、急に手が震え出す。

胸元で両手をギュッと握りしめるも、震えは止まらない。あんな謙信くん初めてみたから。

謙信くん怒ってた。……嫌われてしまったかもしれない。だって弱虫な私とこれ以上話したくないって言ってたもの。
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