ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。

「やばい、遅くなっちゃった」

あまりに部長との話に夢中になりすぎて、トイレに行く時間が遅くなってしまった。

早く済ませないと先輩たちと鉢合わせしてしまう。

化粧室はまだガランとしていて人の気配がない。ホッとし個室に入ったものの、すぐに騒がしい声が聞こえてきた。

「あーあ、午後の勤務辛い」

「今日中に請求書仕上げなくちゃいけないんだっけ？」

「あー、あれ面倒だよね」

この声は……例の先輩たちだ。どうやら化粧直しに来たようで、洗面台の方から、声や音が聞こえる。

どうしよう。完全に出るタイミングを失った。

先輩たちは仕事の愚痴で盛り上がっていて、出て行きづらい雰囲気。

まだ昼休みが終わる時間まで十五分あるけれど、いつまでも個室にこもっているわけにはいかない。

普通に出てサッと手を洗って出ればいいよね。けれど、次の瞬間聞こえてきた声に足は止まる。

「そういえば桐ケ谷さん。最近ますますツンとしちゃって愛想なくて、可愛くないよね」

「言えてるー！　綾瀬さんが声かけても素気ないとこ見た！」

聞こえてきた自分の話にドキッとする。