ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「お先にしつれいします」

「お疲れさま」

新人の私には残業するまで任されている仕事はなく、いつも定時で仕事を終え、オフィスを後にしていく。


商業ビルを出ると、歩道はたくさんの人で溢れている。三ヶ月も経てば朝や帰りの満員電車にも慣れてきたけれど、やっぱり憂鬱になる。

ギューギュー詰めの満員電車に乗り家路に着いた。


「おじいちゃん、ただいま」

「お帰り、すみれ」


おじいちゃんは昔からずっと私が帰宅すると玄関まで来てくれる。学校で辛いことがあっても、おじいちゃんの笑顔を見るとホッとしちゃうのは今も同じ。


「今日はじいちゃんがご飯の用意するからな。すみれはゆっくりしていなさい」

「ありがとう、おじいちゃん」


いつも朝と夜の食事は私が用意している。平日はお手伝いさんにおじいちゃんの昼食を用意してもらい、家の掃除もお願いしている。

部屋で着替えを済ませ、向かった先は仏間。仏壇の前で両親に手を合わせた。


両親の記憶は私にはなく、残っている写真の中のふたりしか知らない。でもどの写真もふたりは笑っていて、幸せそうで。
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