ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「ごめんなさい！　……謙信くんの名前出したりして」

気分悪くしたよね？　聞いて。

すると頬に触れていた手はゆっくりと離れていく。恐る恐る顔を上げると、謙信くんは首を横に振った。

「いいよ、いくらでも俺の名前出してくれて。むしろ俺としては、「謙信くんと私は婚約していて、近々結婚予定なんです！」って言ってほしかったくらい」

「いや、それはさすがにっ……！」

ギョッとし慌てる私の身体を、彼は優しく包み込んだ。

「けっ……謙信くん!?」


突然の抱擁にアタフタする私。謙信くんはそんな私の存在を確かめるように何度も背中や髪に触れてくる。

その心地よさに私は彼に寄りかかった。

「謙信くん……」

「ん？」

甘い声で答えた彼に、そっと尋ねた。

「もう……怒っていないの？」

二日前、彼は怒っていた。私が臆病で弱虫だったから。二日間、ずっと避けられていたのに、こうして会いにきてくれたってことは、もう怒っていないって思ってもいいのかな？

少しだけ顔を上げ彼を見ると、謙信くんは口元を緩めた。
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