ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
すっかりへこんでしまった私に、沙穂さんは明るい声で「元気だして」と言った。

「それでもすみれちゃんは彼のことが好きなんでしょ? だったらめげずに頑張らないと!!」

「そう……ですよね」

そうだ、それでも私は謙信くんのことが好きなんだ。どんな形でもいい。

彼のそばにいられる道を選んだのは自分なのに、なに弱気になっちゃっていたんだろう。

「ありがとうございます、沙穂さん。……いつもすみません」


「なに言ってるの? 恋愛話なら大歓迎! 聞いていると私まで幸せな気持ちになれちゃうから、いつでも聞かせてね」

「じゃあお言葉に甘えてこれからもよろしくお願いします」

こうやって仕事の話や恋愛のことを話せる相手と出会えて、本当に幸せ。

笑い合い、沙穂さんは追加のビールを注文すると「あ、そういえば」となにかを思い出したのかハッとし、神妙な面持ちで私を見つめてきた。

「どうされたんですか?」

変に身構える私に、沙穂さんは眉根を寄せ恐る恐る口を開いた。

「すみれちゃん……専務からなにか私のことで、聞いたりしていない?」

「――え、謙信くんから、ですか? どうしてですか? ……なにかあったんですか?」
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