ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「そう言ってもらえて嬉しいわ。キッチンにはとことん拘ったのよ。なんせ女の仕事場ですから」

女の仕事場。……たしかにそうかも。毎日必ず立ち寄る場所だし。

「えっと、それじゃ盛りつけ手伝ってもらってもいいかしら?」

「はい!」

おばさまに言われ、レタスを盛り揚げたてのから揚げをお皿に乗せていく。するとおばさまはポツリと漏らした。

「いいわね、こういうの」

「え?」

「女の子がいたら、こうしていっしょに料理ができるから。……憧れだったの、娘とキッチンに立つことが」

顔を綻ばせるおばさまに、胸が熱くなる。

私も何度か思い描いたことがあった。

もし、両親が生きていたら、こうやって休日はお母さんとキッチンに立って、リビングで新聞を読んでいるお父さんと話しをしながら、過ごす日々を。

それが今、現実になっているんだよね。……謙信くんと結婚したらこれが日常になるのかな。

「私も……夢でした」

そう思うと、言わずにはいられなかった。

「お母さんとこうやってキッチンに立つことが」

「すみれちゃん……」
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