ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「さっきも。……あいつにあんなこと言って本当によかったのか? 泣くほど好きなんだろ?」

脳裏に浮かぶのは、最後に見た謙信くんの顔。

辛そうな顔をしていた。……彼は最後になにを言おうとしていたのかな。俺はまだ話が終わっていないって言っていた。

でもどんな話があるというの? 聞いても話してくれなかったのに。

「後悔していないのか?」

なにも答えない私に再び聞かれた質問。――後悔していないかって聞かれたら、すぐに答えられる。

「後悔、していないよ。……やっぱりこんな結婚、間違っていると思うから」

結婚って気持ちの先にあるものだったのに。

「後悔していない。……だから私、もう一度片想いからはじめる」

「え、片想いから?」

聞き返してきた一弥くんに、深く頷いた。


「おじいちゃんのことを黙っていたのも、私と結婚しようとしたのも、謙信くんの優しさだと思う。けれどその優しさは私には辛くて、悲しかった。おじいちゃんのこと、話してほしかったし、私をひとりの人間として見てほしかった。……私は謙信くんに守ってもらわなくちゃいけないほど、弱い人間のままでいたくなかったから」
< 219 / 251 >

この作品をシェア

pagetop