ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「すみれ、それは……」

「わかってるよ!? おじいちゃんも謙信くんも、私だから話さない方がいいって思ったんだって。……ふたりの優しさだったんだって」

おじいちゃんの声を遮り、声を荒げてしまう。やっぱり私だけ知らされていなかったのは辛かったから。


「でも私、少しは強くなれたと思う。……だからこそ謙信くんには話してほしかったの。せめておじいちゃんが手術することだけでも。私……ずっと知らずにいたら、今よりもっと惨めで苦しかったと思うから」


たまらず拳をギュッと握りしめてしまう。

私だけ知らずに、謙信くんとの幸せな毎日に浮かれて、後におじいちゃんのことを知ったら……って思うと胸が苦しくなる。

ふたりの気持ちはわかるけれど、それでも言ってほしかった。

ずっと私の話を聞いてくれていたおじいちゃん。少しの沈黙の後、ゆっくりと語り出した。

「すまなかったな、すみれ。……お前に病気のことを話さずにいて」

首を横に振ると、おじいちゃんは天井のクロスを眺めた。
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