ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「両親を失ったお前に、とてもじゃないが言えなかった。……せめてお前に家族を遺してやるまでは」

おじいちゃん……。


「不安だったんだ。今のすみれを遺した後のことを考えると。ふたりだけの家族で、お前の幸せな姿を見ずには死ねないと。……だから謙信に話したんだ。病気のことを。……わしの代わりにすみれを守ってほしいと。だが、それは間違いだったな。わしのせいで、すみれも謙信のことも苦しめてしまった。すまん」

「そんなっ……!」

そんなことない。おじいちゃんの口から話を聞いて、そんな風に思うわけないじゃない。


「謙信にはわしから口止めしていたんだ。……今回の手術は難しいと聞かされておってな。せっかく謙信とふたりで暮らしておるというのに、なにかあった時のことを考えたら、お前には言わない方がいいと思ったんじゃ。それがすみれのためだと。だから謙信を責めないでやってくれ。あいつはじいちゃんとの約束を守ってくれておったのだから」

おじいちゃんの想いに触れ、言葉にならない代わりに、おじいちゃんの手を握りしめた。
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