ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
謙信くんがどんな気持ちで言ったのかわからないけど、好きな人に『すみれとだったら、結婚したいって思えた』なんて言われて、嬉しくならない人なんていない。


「それにこの結婚には、俺にとってもすみれにとっても、メリットがあるだろ?」

「え……メリット?」

どういう意味? 聞き返すと、謙信くんは私の手の中にある箱を取りながら話してくれた。


「すみれ、俺やじいさん以外とはうまく話せないじゃん。でも俺と結婚したら、妻として嫌でも社交場に頻繁に出入りするようになる。そうなったら、人と話すのが苦手なことも、克服できるんじゃないのか? 嫌でもたくさんの人間と付き合わなくてはいけなくなるから。……それをじいさんも期待していた」


返す言葉が見つからない。

ずっとこのままではいけないって思ってきた。けれどいつまで経っても私は、人と付き合うのが苦手なまま。

おじいちゃんに心配かけていることも知っている。

さっきまでドキドキしていたのに、今はズキズキと胸が痛む。
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