ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
どうしよう、そんなこと言われてしまったら錯覚しちゃうよ。

謙信くんも私と同じ気持ちなのかもしれないって。

胸が苦しい。彼の言葉は嬉しくて、そして悲しくもあるから。

謙信くんは私の左手を取った。

「いきなり結婚って言われても困るよな? すみれにとっても俺は、幼なじみってだけだろうし」

やっぱり謙信くんは私の気持ちに気づいていないんだ。

知られているのも困るけど、まったく相手にされていないのも切ない。


「だからまずは結婚を前提に付き合わないか? 婚約者として」

「……えっ婚約者として?」

聞き返すと謙信くんは頷いた。

「あぁ。俺たち、お互いのこと知っているつもりでも、知らないことも多いと思うんだ。……だからまずは婚約者として、お互いのことを知ることからはじめないか? さっきも言ったけど、結婚を前提として」

結婚を前提に? 謙信くんが私の婚約者?
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