ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。

「それにすみれにとってもいい機会じゃ。いい加減、人並みに人間関係を築けるようになれ。……じいちゃんもいつまでも生きていられるわけではない。自分になにかあった時、お前が今のままだったら、じいちゃんは心配で死んでも死にきれん」

「そんな……っ！　そんなこと言わないで」


おじいちゃんがいなくなることなんて、考えたくない。たったひとりの大切な家族なのに。

唇をギュッと噛みしめる私を見て、おじいちゃんは小さく息を漏らした。

「そうはいかんだろう？　じいちゃんだって人間だ。寿命はくる。……そうなった時、すみれが幸せなら安心して逝ける。だからすみれ。苦手を克服し、謙信と幸せになれ」


しみじみと話すおじいちゃんに、なにも言えない。修繕工事はたった数ヵ月間だけ。おじいちゃんがお世話になるお弟子さんの家と、謙信くんの家からはそう遠く離れていない。

会おうと思えばいつでも会える距離なのに、おじいちゃんはまるでしばらく会えなくなるような言い方をするから。

その時、家の中から電話の呼び出し音が鳴った。