ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「どう? 美味しいか?」

頬杖をつき尋ねてきた彼に、緩んでいた口を慌てて引き締めた。

「うん、すごく」

慌てて口に頬張っていると、謙信くんは私を愛しそうに見つめてくる。

「それはよかった。……じゃあまたふたりで今度来よう」

「え……ふたりで?」

「もちろん」

即答した謙信くんに、嬉しさがこみ上げる。


そっか。……結婚するってことは、これから私はずっと謙信くんのそばにいられるってことだよね。

出掛けたり、いっしょにご飯を食べたり。そういった時間を誰よりも一番長く過ごすことができるんだ。

改めて謙信くんとのことを考え、幸せを噛みしめていると彼は珈琲を啜りながら小さく首を傾げた。

「どうかした? それとも俺とはもう食事に行きたくない?」

「そんな、まさかっ……!」

つい力を入れて否定すると、謙信くんは目を丸くさせた後、顔を綻ばせた。

「じゃあ約束。……また必ず来よう」

「う、うん」

どうしよう、顔が火照る。だってあまりにも謙信くんが嬉しそうに言うから。


それからはまともに謙信くんの顔が見ることができず、ただベーグルサンドを食べ続けるしかできずにいた。
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